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日本国内で使用可能であるグルコサミン塩酸塩を使い、その変形性膝関節症に対する効果を検討した。当院を受診した変形性膝関節症患者のうち単純X線でKellgren & Lawrence分類で少なくともGrade 2以上かつ継続して2年以上の診察が可能であったものを対象とした。純粋なグルコサミン塩酸塩は1日の内服量を1500mgとし、無作為にNSAID服用群とグルコサミン塩酸塩服用群とに分け、両群とも服用開始時を0として、4ヶ月、8ヶ月、12ヶ月、24ヶ月でのVAS scoreと膝関節の可動域を測定した。VAS scoreの経時的変化は0~24ヶ月でのarea under the curve(AUC)に変換した。VASのAUC値はグルコサミン塩酸塩群が有意に低下した(p<0.001)。膝の屈曲変化率はNSAID群が有意に改善したが、伸展変化率では両群で有意差が認められなかった。膝の痛みの軽減にグルコサミン塩酸塩はNSAIDとほぼ同等であるといえる。しかし痛みの軽減が必ずしも関節可動域の改善までにはいたらないということがわかった。 |
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変形性膝関節症は、加齢とともに増加する整形外科が扱う代表的疾患のひとつである。Loeserら1)によれば、変形性膝関節症の発生頻度は50歳を過ぎると急激に増加し、60歳以上では80%以上の人に何らかのX線学的変化が出現するとのことである。
2003年には日本国内では720万人がそれに罹患していると推測されており、机上の計算では2020年には有病者数は1000万人を超えるとされている2)。その原因は、加齢によるためとか体重過多と説明されることが多いが、それだけで説明するにはあまりにも不十分で、全容はいまだ明らかになっていないと言ってよい。これまで変形性膝関節症の保存的治療は運動療法、NSAIDを中心とした薬物療法、ヒアルロン酸製剤の関節内注射、物理療法などであった。ところがヨーロッパではグルコサミン硫酸塩が1980年代初頭から変形性関節症に対し使われ始めた3)4)5)6)。
グルコサミンには抗炎症作用、鎮痛作用があるとされるが、動物実験レベルでは軟骨の磨耗を減らし、さらには再生へも導く可能性をも示唆する報告がある7)。日本では食品衛生法によりグルコサミン硫酸塩は使うことができないが塩酸塩であれば使用可能である。当院ではグルコサミン塩酸塩を変形性膝関節症患者に摂取してもらい、その効果を検討した。

2000年11月開院以来、当院を受診した変形性膝関節症患者のうち、単純X線のKellgren & Lawrence 分類で少なくともGrade2以上かつ継続して2年以上の診察が可能であったものを対象とした。
被験者には、ヘルシンキ宣言の勧告に従い主旨を説明し同意を得た上で試験を行った。
純粋なグルコサミン塩酸塩は1日の総摂取量を1500mgとし、3回にわけて摂取してもらった。無作為にNSAID(Loxoprofen sodium)服用群とグルコサミン塩酸塩服用群とに分け、両群ともに服用開始時を0として、4ヶ月・8ヶ月・12ヶ月・24ヶ月でのVAS
scoreと膝関節の可動域を測定した。無作為化は、試験開始日よりNSAID服用群とグルコサミン塩酸塩服用群を隔日で繰り返すことによって行った。VAS
scoreの経時的変化は0〜24ヶ月でそれぞれの症例がつくるグラフ上での面積を積分して求める、いわゆるarea under the curve(AUC)に変換した後に Man-Whitney検定を行い、その中央値を両群で比較した。AUCは数値が大きいことはVAS
scoreの改善が少ない、逆に小さいことはその改善をみていると解釈する。
膝の屈曲・伸展角度は、服用開始時に対する服用24ヶ月後の変化率とし、それに対してMan-Whitney検定を行い、同じくその中央値を比較した。変化率が正の数の場合は改善を示し、負の数の場合は増悪を示す。有意水準は両側5%とした。

293名の変形性膝関節症患者から調査を開始した。無作為に分けたその内訳はNSAID服用群138名、グルコサミン服用群155名であった。そのうちNSAID服用群では89名が脱落、グルコサミン服用群では35名が脱落し最終的にはNSAID服用群49例(平均66.0歳)、グルコサミン服用群120例(平均62.7歳)であった(図1)。両群での年齢による有意差は認められなかった(図2)。
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VAS scoreは平均値では24か月後にはどちらの群も低下していた(図3)。
しかしながら服用開始時、つまり0ヶ月での両群のVAS平均値に差異があるために直接比較することは意味をなさない。そこでAUCに変換した。それでは、グルコサミン群が有意に低下した(p<0.001)(図4)。
膝の屈曲変化率はNSAID群が有意に改善したが(図5)、伸展変化率では両群で有意差が認められなかった(図6)。

近年、健康や体調維持のために健康補助食品(サプリメント)を摂取することが世間ではかなり浸透している。健康補助食品であるがために薬事法のもと、その効果・効能を明白に提示することはできないが、それをうかがわせる文言をならべることは可能で、その情報が口コミによりさらに広がるといった状況である。グルコサミンに至っては、新聞・雑誌の広告でその宣伝を目にしない日はなく、世間的にはすでに価格競争の時代に入っているレベルであると言っても過言ではない。そしてそのグルコサミン塩酸塩は、医者は知らないが患者は知っている健康補助食品と言うこともできる。そのような世間の流れを追いかけるようにして各方面からグルコサミンの生体への効果の報告が相次いでいる。軟骨の生成促進作用7)、消炎鎮痛作用、血小板凝集抑制作用8)9)などである。すでに1999年のアメリカ整形外科学会では変形性膝関節症に対するグルコサミンの効果と題したシンポジウムが開かれており10)、またReginsterは2001年のLancet誌11)でrandomized study での変形性膝関節症に対するグルコサミンの有効性を述べている。その一方で、経口摂取されたグルコサミンがどのような代謝経路を経て膝関節、特に軟骨周辺へ移行するのかは依然としてわかっていない。
今回、変形性膝関節症患者の治療のひとつの方法としてグルコサミンを用いて臨床データを得ることを試みたが、幸運にもグルコサミン精製メーカーの協力が得られ、市販の混合物を含有したものとは異なる純粋なグルコサミン塩酸塩を使うことが可能であった。本来データを得るためには、プラセボを用いた二重盲検テストが不可欠であることは言うまでもない。が、現実問題として、個人経営の整形外科医院においてプラセボを用いた二重盲検テストは患者との信頼関係という観点から見るとほぼ不可能に近い。そのためLoxoprofen sodiumを用いたNSAID群とグルコサミン群との比較検討となった。
その結果、2年間にわたる長期成績では、グルコサミン塩酸塩は変形性膝関節症の痛みを軽減するという点で、NSAIDに匹敵するということができた。ただし、どちらの群に対しても疼痛軽減が即、関節の可動域の改善にはつながらないということもわかった。
NSAID群での脱落数がグルコサミン群をかなり上まわった理由は、NSAID特有の副作用としての消化器症状がおきたため服用の継続断念を余儀なくされたこと、NSAIDを使って痛みが軽減することはこれまでの整形外科的治療では至極あたり前のため通院が途絶してしまったこと、などがあげられる。逆にグルコサミン群で比較的多くの症例で継続した通院ができたのは、副作用がないこと、ものめずらしさも手伝って治療継続に対するモチベーションが高かったこと、などがあげられる。一方、グルコサミン群での脱落例は初期の段階で疼痛に対してグルコサミンだけでは疼痛のコントロールが無理で、NSAIDを使ってしまった例がほとんどであった。また両群ともに、症状が強く他の治療法を選択せざるを得なくなり脱落したものや、まったく症状が不変のため脱落したものも複数例あった。
AUCによる評価法は、24ヶ月のデータがすべてそろっていることが前提である。そのため途中での脱落例は評価に際して加味されていない。そこで服用開始4ヶ月以降に脱落した例(グルコサミン服用群での脱落35例中15例、NSAID服用群での脱落89例中20例)について、4ヶ月後および各症例の最終診察時でのVASをそれぞれ開始時と比較検討した。
Man-Whitney検定を行った結果、開始時との差は、平均順位ではAUCの結果と同じ傾向を示した。しかし、開始時〜4ヶ月後はp=0.894、開始時〜最終診察時ではp=0.888と両群間での有意差を認めなかった。以上より、途中脱落による数の偏りで有意差を認めたのではなく、グルコサミン塩酸塩による痛みの軽減により有意差を認めたものと考えられた。
医療費削減が叫ばれて久しい。少子高齢化は進むばかりである。薬を使わずに健康な膝を保つために、いわゆる代替療法として、グルコサミンは一つの可能性を含んでいると考えられる。
(内容は第30回日本膝関節学会 2005/2/11で発表)

1)Loeser RF Jr,et al: Aging and the etiopathogenesis and treatment of osteoarthritis.
Rheum Dis Clin North Am. 2000; 26: 547-567
2) 山本精三: 膝関節, 骨と関節 vol.18: 12-15, 2004
3) Crolle G et al: Glucosamine sulphate for the management of arthrosis: a
controlled clinical investigation. Curr Med Res Opin, 7: 104-109, 1980
4) Drovanti,A et al: Therapeutic activity of oral glucosamine sulfate in osteoarthrosis:A placebo-controlled double-blind investigation. Clin Therapeutics, :260-272, 1980
5) Pavelka,K et al: Glucosamine sulfate use snd delay of progression of knee
osteoarthritis. Arch Intern Med 162: 2113-2123, 2002
6) Tapadinhas,MJ et al: Oral glucosamine sulfate in the management of arthritis:
Report on a multi-centre open investigationin Portugal.Pharmatherapeutica,3:157-168,
1982
7) Tamai,Y et al: Enhanced healing of cartilaginous injuries by glucosamine hydrochloride. Carbohydrate Polymers 48: 369-378, 2002
8) 長岡功,華見,菊池佑二,坂本廣司: グルコサミンの好中球機能と血流速度におよぼす影響. 日本ヘモレオロジー学会誌 Vol.5: 23-30,
2002
9)華見,勝呂栞,石井裕子,岩渕和久,坂本廣司,長岡功: グルコサミンの血小板機能に及ぼす影響. 日本炎症再生医学会誌 Vol.23 164-169 2003
10) Buckwalter,JA New approach to the treatment of osteoarthritis: oral chondroitin sulfate and glucosamine,hyaluronan injections and intra-articular polyurethane. AAOS 66th annual meeting final program.76, 1999
11) Reginster,JY Deroisy,R Rovati,LC Lee,RL Lejeune,E Bruyere,O Giacovelli,G
Henrotin,Y Dacre,JE Gossett,C: Long-term effects of glucosamine sulphate
on osteoarthritis progression:a randomised,placebo-controlled clinical
trial. The Lancet Vol.357 251-256 2001 |
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